姉とはどうも馬が合わない。30年強生きてきても尚感じるが、いつか変わるのだろうか。
血縁の呪縛
年子の姉がいる。端的に言えば見た目も性格も真反対である。母親似の姉と父親似の妹。それぞれの親戚からそれぞれ同じことを言われるのはさすがに慣れたが、当事者としてはどっこいどっこいである。
私から言わせてもらえば、姉は真面目ばかりで気が利かない。そのくせたまにびっくりするくらい傍若無人なことを言い出すから結構ハラハラする。デリカシーのない父親を毛嫌いしているが、馬鹿正直に真正面から話をするからであって、適切な距離感を未だに理解していないだけだ。傍で見る分には同族嫌悪なだけで、短気でモノに当たるあたり父親にそっくりとしか言いようがない。父は加齢によりだいぶ丸くなったから、今一家で一番気が短いのは姉である。
姉からすればこんなにめんどくさい妹はいないとも思う。一家で唯一酒を飲むし、声はデカいしやたらよくしゃべる。親戚のジジババにも気兼ねせず話しかけにいくからヒヤヒヤしているかもしれない。愚直に生きてきた人からすると、ひょうひょうっとその場を上手に切り抜けて過ごしている人間は、さぞ度し難いだろう。だがこれはこれで姉の好きな母親の一面でもある。
自分で言うのも白けるが、私が気が長いというか、瞬発的にカッとなることが少ないのはこんな家庭で育ってきたからだと思う。イラっとしても一言「あぁごめん」と言えば昂ぶりは抑えられる。我が身を振り返ることが我が身を守る手段になり得ると、次女であり末っ子の私は学習したのだ。
今日は姉と喧嘩した。本当にしょうもない、言うのも恥ずかしいような内容だが、姉のぶっきらぼうで論点がずれた内容にヒートアップして、ついこちらも声を荒げた。母の書き置きについて、出発前の車内での口論。姉「メモ見た?」私「なにそれ知らん」「なんで見てないんやおかんがせっかく書いてくれてんのに」「知らんのやからしょうがないやん」「〇〇のとこにあったのに」「ほな出る前にメモあるよて言うてくれや」「お前のことなんやから知るか」「それやったらそのこと自体言うなやし知っとるなら写真撮るくらいできんのか」そうだ、とてもくだらない話である。

おいしい瓦そばのメーカーについてのメモである。実際のおすすめはコープでも取り扱いがある杉山食品工業だった。名城もおいしいが、杉山の方がつゆがおいしいとご近所のマダムからも好評らしい。三浦製麺はつゆが甘ったるいらしい。そんなに違うのか。
さて、そんなくらだない口論の後出かけたわけだが、姉は「私めちゃくちゃ機嫌悪いです」と言わんばかりにぶすっとスマホを見ている。助手席に乗る人間が左右確認、特に左を見るのは我が家の常識である。それができないなら助手席に乗るべきではない。だが、姉はひたすらスマホを見ている。くそっ。
道中お茶を買おうかと自販機に寄ろうとする。姉もなにかいるかしらとチラッとみれば、助手席のドリンクホルダーにはきっちりペットボトルの麦茶が鎮座している。くそっ。出るときに「お茶いる?」とでも聞いてくれたらいいのに。こういうところだぞ。
昼は先にスマホで注文しておいてテイクアウトしようとの算段になっていたが、姉は一向に動かない。永遠になめことポケモンをゲットしている。ふざけるな。痺れを切らして私のスマホを渡して「いるものカートに入れておけ」と投げる。本当は自分のスマホを他人に触らせるのは虫唾が走るほど嫌いだ。でも、運転中にスマホを触るわけにもいかないし、何よりご飯を買っていくと伝えている両親に迷惑がかかる。なんで妹の私がこんなに気を使わなければならないのか。
姉としても気まずいのか、Bluetoothで私の好きなキュウソネコカミの音楽をかける。ここまでヘイトが積もり積もっていればもはや鬱陶しいだけである。曲いじるぐらいなら左を見てくれ。道を案内しろ。
そんなモヤモヤの中、コーヒーショップでコーヒーを注文したが、ストローを差すときに手が滑って8割方をこぼしてしまった。なんとも情けない。店員さんに「すみませんこぼしちゃって…」と伝えると、気持ちいい笑顔でササっと片付けながら、「よかったら新しくお作りしますよ!」って…。
自分が恥ずかしいったらない。姉に対して「教えてくれてありがとう」とか一言でも言えていたらよかったのに、ついカチンときてしまった。いやあれは姉のいい方も良くなかったから結局きれいごとなんだけど、世の中はやさしさでめぐっている。このお兄さんはコーヒーをぶち溢した愚かな私にもこんなに優しくしてくれているというのに。調子に乗ってハニーカフェオレなんか注文するからだ。
その後もまだ別件で喧嘩勃発しそうになったが、私の心のゆとりにより回避された。
そもそもの元をたどれば、昨夜「明日は10時ごろ出ようか」と言っていたのに、私が10時4分くらいになっても段取りしていたのが気に入らなかったのだと思う。それくらいで?と思うかもしれないが、長年過ごしているとわかる。戸締りもせず先にさっさと車に乗り込んでいたからそういうことなんだろう。だったら「何時ごろ出れそう?」って聞くとか、先に戸締りしておくよとか、そういう気が回らないのが姉である。私とて好きで4分ダラダラしていたわけではない。私のAmazonプライムビデオのアカウントで、私が買ったFire TV Stickで、10時きっかりまで悠々と忍たまの映画を見ていたのが気に入らないのはさておいても、そういうちょっとした気遣いが必要なんじゃあないか。
多分よそから見たら似た者同士なのだろうと自覚はしているから、余計に気分が悪くなる。姉妹されど他人。一個人が他者と完全に分かり合えるなんてことはあり得ない。それが肉親だろうと同じ遺伝子を持っていようと、こればかりは運でありガチャなのかもしれない。
声が小さい姉に聞き返すときに「なに?」と言うと機嫌が悪くなるので多少聞き取れなくても愛想笑いするとか、「〇〇したらええんじゃない?」と言うときは他の意図があるとか、体型とか髪型の話は褒めてもキレられるから言うべきでないとか、私なりにトリセツを構築してはいるが、まだ地雷原は広がっているらしい。姉のことは尊敬しているところもある。ただ、それ以上に未だに理解できないところもあって、今のところ人類で二番目に恐ろしい存在である。ちなみに、一番目は母親だ。

