多忙に呆けているうちにすっかり世間は秋になっていた。10月のカレンダーも半分以上過ぎたのだから当たり前なのだけれど、四季の中で一番付き合いが悪いのは秋だ。
キンモクセイ どこ~
10分外出すれば滝汗だったのがウソのように、空気はすっかり乾燥して風は冷たくなった。寒がりの方からすればもう半袖は押入れの最奥だろうが、暑がりにとっては心地よいことこの上ない。半袖に薄い羽織があればちょうどいい。苦手な紫外線も気にしなくていいし、出不精が緩和されて助かる。
先ほど歩いて10分のスーパーにお買い物に行ってきた。少し雨が降りそうな曇り空ということもあって、涼やかに抜ける風がとても気持ちがいい。この気温があと4ヶ月ぐらい続いてほしいものだが、ベランダの洗濯物がいつまでもグズグズ湿っているのも悩ましいところだ。
SNSでは『キンモクセイの香りがした』と騒がれている、らしい。私は今のところほんのりとしか感じていない。近隣に植わっているところが少ないのだろう、毎年SNSよりも少し遅れて香りを楽しむことになる。
四季を感じる香りと言えばキンモクセイが真っ先に上がるだろうが、私としては三大香木でもあるクチナシの方を推している。6~7月の盛夏前に咲く清楚な白い花弁、夜に香りが強くなる慎ましさ、雨上がりにふわっと漂う優美さ、どれをとっても好きだ。「ガーデニア」と言えば香水で見たことがあるかもしれない。
三大香木とはジンチョウゲ、クチナシ、キンモクセイを指す。どれも好きだが、四季の移ろいの代名詞としてピックアップされるのはキンモクセイな気がする。幼女時代、小瓶にキンモクセイの花弁を詰めて香水(という名目の飾り)を作った人は少なくないだろう。
キンモクセイは香りもさることながら、小さいオレンジの花弁が万人受けするのだろう。その控えめな見た目と裏腹に、強く甘い香りを漂わせることから「謙虚」「謙遜」の花言葉を持つ。アイドルのような見た目のかわいらしい子が芋焼酎ロックをおかわりする、そんな印象で中々やり手じゃあないか(偏見)。そりゃあ秋前にキンモクセイの香りのコスメが世に憚りますわなっと。
キンモクセイの香りは待ち遠しい気持ちがあるけれど、その反面、実際に鼻腔に抜けるとなんだか切なくなる。これは通っていた小学校の校庭にあったからなのか、都会に移り住んで自然が遠くなったからなのかはわからない。
キンモクセイが終われば、寒さと一緒にロウバイが香る時期になる。それはそれで楽しみだが、花のいのちはみじかくて、盛りをすぎた存在に気が付くときの喪失感は形容しがたい。
もう少しゆっくり楽しませてもらいたいものだが、秋は無言でせっかちで常に駆け足だ。秋刀魚の旬だってあと一か月伸びてもいいだろうに。こうして文句を言っている間にもすり抜ける秋、油断ならない存在、だから好きなんだけどね。

