【読書感想文】 頭を木魚に 【あの笑い飯・哲夫さん】ネタバレなし

おはよう。日記の時間だよ
「鳥人」の狂気 ふたたび
「笑い飯」といえば、2009年のM-1グランプリにおいて「鳥人」というシュールなダブルボケで一世を風靡した、西田氏と哲夫氏のコンビである。
ま、平成のお笑い好きの私としては、NHK「爆笑オンエアバトル」で見た時から好きではあったのだけれど・・・というマウントはさておき、現在もお二人ともそれぞれ大活躍中、言うまでもなく私も大ファンだ。
特に哲夫さんは仏教について造詣が深く、学生時代は哲学の勉強をされていたという。
仏教に関する本を何冊か出版されており、今回の著書「頭を木魚に」もまた仏教のエッセンスがちりばめられている。
出版社から「死の恐怖から少しでもマシになるような本が書けないか?」と依頼があったことで執筆がはじまった本著、笑い飯・哲夫のお笑い節と仏教のカオスさがどんな化学反応になるのだろう。
頭を木魚に 笑い飯 哲夫

そもそもこの本を読んでみようと思ったきっかけは、ピース又吉さんとのYouTube動画だった。
哲夫さんの仏教についての話が聞きたかったが、その実新刊の紹介半分みたいなところで、それなら面白そうだと購入してみた。
私が小説の新刊をハードカバーで購入するなんて、初めてかもしれないできごとである。軽くて持ちやすくて安い文庫本の方が好きだし、販売直後のハードカバーでも買いたい!と思うほどに熱中する作家さんがいないということもある。
でもなんだか読んでみたくて、本屋に一冊だけあった本著を購入した次第である。

まずこの本には気持ちがパァッと明るくなるようなことはなにもない。常にイヤ~~な感じの嫌悪感がつきまとい、「本当に救いがあるのか」と不安になる。
なにをやってもうまくいかない主人公。かろうじて妻と子どもには父としての威厳を見せようとこだわりを抱え、心から家族を愛している。ヨレヨレのスーツに踵のすり減った革靴、いわゆる「ツイてないダメンズ」って感じ。
そんな男がまっとうに生きていくなんて難しいに決まっている。男の世界は一つのきっかけから崩壊する。
その横でまた別の世界が歴史を紐解きはじめる。冒頭で説明される「影武者」について、そして男の世界について。
仏教の考え方について、禅について本を読みあさった時に少し学んだことがある。
仏教と禅は発祥や創始者も異なるが、仏教が中国に伝わった際、形を変えたものが禅とされている。メンタルがボロボロで流行りの「マインドフルネス」を知りたくて読んだ本が禅についてのものだった。
それからもっと別の形で哲学や仏教の考え方を知りたいと読んだ「自分とか、ないから。」にとんでもない衝撃を受けた。

精神的に病んだことのある人間は、まず書物に救いを求める。
これはおそらく現代だからこそだろう、識字率が低い昔なら、神社やお寺に行って説法を聞くのが一般的だったのだろうと推測する。
「自分とか、ないから。」の著者・しんめいPもそんな感じで東洋哲学にのめり込んだ結果、とんでもない一冊が爆誕した。ありがたい限りである。
とまぁこんな感じで、宗教・哲学は「なぜ生きるのか」「逃れられない死の苦しみをどうするか」みたいなことを考え抜いたすごい人らの知見であって、それは今なお様々な媒体で受け継がれている。
この「頭を木魚に」もその一つで、具体的な生と死こそ形容されていないものの、ご先祖様の話や人間の長い歴史の中のできごとを切り取り貼り付け、巧妙にピースをかけあわせて物語が進んでいく。
人間だれしも、5代前まで遡ると、家系図には62人が登場する。
つまり、自分1人が今生きているのは、62人もの人たちが生きながらえた証拠なのである。もっと言うと、10代遡ると1,024人、20代まで遡ると1,048,576人、30代前まで遡ると、1,073,741,824人・・・途方もない人がいる。
そのうちの誰か1人でも欠けていれば自分は存在していない。自分の両親、祖父母、曾祖父母、高祖父母・・・とご先祖様を辿り、今の命をいただいている。
人はいつか必ず死ぬ。それは「諸行無常」であり「諸法無我」でもある。
だからこそ人は苦しみ、生きることに意味を見いだそうとする。
本著の主人公は何度も壊れる。「もうこれ以上はやめてくれ」と言いたくなるくらいボロボロになる。こっちの頭がおかしくなりそうな幻想の中、彼なりに物語は前に進んでいく。
正直、ラストは「うーん・・・」と不完全燃焼な感じだったけれど、中盤~ラスト直前の勢いが素晴らしかった。堰を切ったようにトトッと進みはじめる不安と軽快さが主人公の心を表しているようで心地よい。
哲夫さん自身も「ラストは気持ち悪くした」とあったので、この感想で正解のようなそうでないような・・・とにかく最後まで読めばタイトルも、影武者たる生き様がすべて納得できる。
仏教の考え方がある程度知識として入っている方が読みやすいとは思うけど、説明がわかりやすくて、学ぶきっかけの一冊になるかもしれない。
も~~にっちもさっちもうまくいかない!という方より、そんな悩みから離脱しそうな方に読んでほしいかな。悩み真っ最中の方にはちょっとしんどすぎるかもしれない。


